アッバス・キアロスタミ「トスカーナの贋作」レビュー

Posted :19/07/2016 , Modified :

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アッバス・キアロスタミ監督の2010年の作品「 トスカーナの贋作( 原題:Copie Conforme ) 」を観ました。

あらすじは以下Wikipediaに載っているものを大胆に引用します。

トスカーナの小さな村で、『贋作 本物より美しき贋作を』という本を発表したジェームズ( ウィリアム・シメル )の講演が行われる。それを1人の女( ジュリエット・ビノシュ )が息子を連れて聞きに来ていた。公演の後、女が経営するギャラリーをジェームズが訪れ、再会。「 面白い場所へ連れ行ってあげる 」という女の誘いに「 9時までに戻らないと列車に遅れる 」という条件で付きあう。「 トスカーナのモナリザ 」という贋作を見せるが、「 モナリザだってジョコンダ夫人の贋作にすぎない 」とつれない。2人はカフェで夫婦と間違われたことをきっかけに、ゲームのように長年連れ添った夫婦を演じ始める。初めは順調に進んでいったが、彫像をきっかけに、2人の間に微妙なずれが生じてゆく。互いに苛立ちを感じ始めた頃、老夫婦と出会い、2人を夫婦と誤解した老夫婦の夫の方がジェームズにアドバイスを送る。「 君の奥さんが求めているのは、そっと肩を抱かれて歩くことだ 」。レストランで微妙なずれを埋めるため、魅力的な“妻”になろうと化粧直しをする女。しかし、会話が噛みあわなくなり、苛立ちが最高潮に達したジェームズは店を出ていってしまう。女は後を追い、1人で教会へ歩いていく。教会から出てきた女に、ジェームズは本当の妻を労わるように静かに謝る。穏やかに夫婦の関係を築き直そうと、2人はお互いを許し、寄り添う。すると突然、女は「 15年前の結婚式の夜に泊まった 」と言って、近くの安ホテルを訪れる。「 15年前に泊まった部屋 」に通された女はすでに“夫婦”の関係をゲームに留められなくなっていた。ジェームズは自分が幻想を求めているのかどうかを見定めるように、洗面台の鏡に映った“夫”を演じる自分を見つめる。「 言ったはずだ。9時までに戻ると 」。教会の鐘が響き、夕暮れを告げていた…。

引用元:トスカーナの贋作 - Wikipedia

ちなみに主演のジュリエット・ビノシュはこの映画でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞しています。

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感想

この映画でなにより印象に残ったのは、主人公の二人が使う言語だったりする。最初の二人はともに英語で会話をしていたのだが、夫婦に間違われたところから女はフランス語、男は英語に。そしてリアリティある( 実際は存在しない )夫婦の痴話ゲンカのあとは、ともにフランス語で会話するようになるのです。この言語展開に理由付けをするのは無粋かもしれませんが、たとえば二人がそれぞれ演じる( あるいは真実の姿である )夫婦の役割に対する没入度を使用言語の変化によって表現している、ととることもできます。

それはともかく、存在し得ない「 家庭を顧みない夫のおかげで倦怠期にある15年連れ添う夫婦 」という関係を( 口裏を合わせる描写もなく )共通意識として持ちながら、あまりに現実的な「 虚構の夫婦 」を装う姿にはゾクゾクさせられました。直線的に思い出すのは、やはりデヴィッド・リンチの「 マルホランド・ドライブ 」、それもClub Silencioのシーン。前提がひとつ加わるだけで普通の行動が違って見える、という好例かと思います。

特にジュリエット・ビノシュの演じる女性の「 妻 」としての振る舞いはすごい。彼女は通常の夫婦であればユビキタスな「 今でも私に振り向いてほしいの 」という感情を爆発的に吐露しているのだけど、ただそれに「 これは演技である 」という要素が加わるだけで、その行動が狂気とすら思えてくるのです。はたして男と女は本当に夫婦のフリをしているだけなのか、ほんとは元々夫婦だったのではないか、その割には最初はよそよそし過ぎた、しかし彼の講演会で彼女は予約席に座っていたのだから、過去に何らかの関わりがあったはずだ、なんてことを考えて堂々巡りを繰り返す、そんな素晴らしい映画でした。

そして反射などを駆使して話のすべてがフレームの中に収まっていたりとか、映像もこの上なく美しい。町中を動き回る彼らの動きを追うカメラワークに注目していると、トスカーナの町を旅しているような気分になれます。

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