チリ出身のセバスティアン・レリオ監督作「 Una Mujer Fantástica 」( 邦題:ナチュラル・ウーマン )を恵比寿ガーデンシネマにて観てきました。アカデミー外国語映画賞受賞おめでとうございます。
映画概要
映画はチリ・サンティアゴでウェイトレスをしながらクラブシンガーとして生きるトランスジェンダーの女性マリーナが、恋人オランドと彼女の誕生日を祝ったその日にオランドが急病に倒れ死んでしまう不運に見舞われ、そこから自身のアイデンティティが原因で引き起こされてしまう様々な問題に悩まされる姿を描く、といったストーリー。いわゆるLGBTを扱った映画ということもあり、監督のレリオは一部で"あたらしいアルモドバル"と呼ばれているらしい。古いほうもまだ健在なのですけれど。
雑然とした感想
トランスジェンダーへの理解がない人間が彼らに対して考えうるすべての罵詈雑言や不寛容さ、偏見が主人公のマリーナに直接投げつけられるので観ていてとても辛いのだが、そういった状況でも常に凛とした表情を崩さず問題の解決に前進していく( 実際強い歩調で道を歩く、文字通り前進するシーンがたくさん出てくる )彼女の姿にはシンプルに胸を打たれた。
主演のダニエラ・ベガのトランスジェンダーとしての体験がストーリーにも強く影響を与えてるらしいが、それにしても設定や脚本の時点で役者本人を追い込むような作りになっていたのが気になった。例えばマリーナの出生名がダニエラの男性系であるダニエルだったり、男性用サウナに男として入らされたり。それぞれ別の名前に変えることも、女性として忍び込む展開にすることもできただろうに、なんてイジワルな監督だろう。しかしそれでもなお、誇り高き佇まいを崩さない彼女の姿は万人の目に美しく映るに違いない。
あとは他者と交わした約束を破ると破られた側から尊厳を失わされるような報復を受ける、といった 北野武のヤクザ映画を彷彿させるシステマティックな脚本と「 マジカル・ガール 」「 ロブスター 」に代表されるような( 「 ラ・ラ・ランド 」もそうかも )21世紀の映画の特徴のひとつである、物語の最重要場面で起きたことを観客の判断に丸投げする演出が印象的だった。所謂"マクガフィン"が出てくる作品でもある。映像的にもヒッチコックの映画からたくさん引用しているらしいので、レリオは相当なヒッチコック・ファンのようだ。
最後に、たとえアレサ・フランクリンの歌う「 ( You Make Me Feel Like )Natural Woman 」が劇中で印象的にフィーチャーされているとしても、主演女優ダニエラ・ベガの出自をあらぬ方向から浮き彫りにしてしまうこの邦題はあまりにもひどすぎると思う。口にも出したくなかったので、劇場窓口で受付の方に失礼と知りながらポスターを指差して「 これの鑑賞券ください 」と言ってしまいましたよ。あまりこういうこと言うのもどうかと思うがどうしても言わずにはいられないので許してください。
ともあれ、ゲイやバイセクシャルが普通に出てくるアルモドバルやドラン、ストレートなLGBTムービーといった趣のケシシュなどとはまた違ったタイプの映画だと思うので、そういった映画にご興味ある方はぜひ劇場へ。そうでないかたもついでにどうぞ。
関連リンク
映画オフィシャルサイト
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