Rie Fukuda , Design:Yoko Sakamoto

【Ken Kobayashiのロンドンところどころ】Vol.1:日本とイギリスとのあいだで揺れる“J-POP”ということば

Posted :25/03/2018 , Modified :

-sponsored link-

ロンドン在住のシンガー・ソングライターKen Kobayashiによるコラムです。さまざまな人種や言語が交錯する世界的文化都市であり、また自身の生まれ育った場所でもあるロンドンの街中で出会った、音楽やカルチャーにまつわるあれこれを綴ります。
記念すべき第一回目は、Kero Kero Bonitoと"J-POP"のおはなし。

"J-POP"ユニットKero Kero Bonito

ぼくの友人でロンドンを拠点に活動している3人組インディー・ポップ・ユニットKero Kero Bonito( KKB )は、昨年サマーソニックに出演し、さらにはソニー・レコードからメジャーデビューを果たすなど、すでに日本でも数多くの音楽リスナーに知れ渡る存在となっている。2018年に入ってからは新作「 TOTEP 」を発表、来月にはそのリリースイベントも控えているなど、これまでと多少スタイルを変えながらも精力的に活動を継続中だ。昔ギタリストとしてKKBに関わっていたことがあるぼくとしては、そんな彼らの活躍はとてもうれしい。これからも彼らが世界を股にかけた活躍をみせることを心から願っている。

Kero Kero Bonito最新のKero Kero Bonitoのプロフィール写真。"J-POP"トリオと呼ばれていた当時のビジュアル・イメージはこちら

ところで、KKBはメンバー全員がロンドン出身だが、イギリスではたまに「 J-POPトリオ 」なんて紹介されることがある。これはゲーム音楽にインスパイアされたトラックと日英入り混じるリリック、原色でカラフルなビジュアルイメージ、といった彼らの独特な音楽スタイルにくわえ、ボーカルのセーラのルーツが日本にあることがその理由だと思う。イギリスでは彼らがそう呼ばれることがほとんど問題なく受け入れられているが、いわゆるホンモノの"J-POP"に日々慣れ親しんでいる日本の音楽ファンにとっては少し違和感がある表現だと感じる。どうも日本とイギリスとで"J-POP"が意味しているものに少し違いがあるようだ。そこで今回は、イギリスで"J-POP"とはどういった意味で使われているのかについて考えてみたい。

"J-POP"=日本のポップス、だけではない?

ロンドン中心街にあるKawaiiショップ「 Artbox 」の様子。イギリス人が「 J-POP 」と聞いて想像するもののひとつはこんな世界だ©︎Sara Amroussi-Gilissen
ロンドン中心街にあるKawaiiショップ「 Artbox 」の様子。イギリス人が"J-POP"と聞いて想像するもののひとつはこんな世界

そもそも日本語ネイティヴの人間が"J-POP"と聞いてイメージするものは何だろうか。おそらく、誰にでも聴きやすい、ヒットチャートの上位にくるような、いわゆる"売れている"日本の音楽のことを思い浮かべると思う。このことばは80年代末にとある日本のラジオ局がから生まれたとされている。当時洋楽のみオンエアしていた同局で日本のポップスを流すよう方針展開した際「 われわれの洋楽中心のオンエア・リストの中でかかる日本のポップスは、日本のポップスの中でも特別なポップスである 」といった意味を込めてそれらを"J-POP"と呼び、ある種ブランド化を図る目的があったらしい。しかしご存知のとおり、現在では"J-POP"ということばだけが一人歩きし、意味が大きく広がった。すなわち、音楽の実際のジャンルにとらわれない、日本で商業ベースに制作された若者向けポピュラー・ミュージックの総称となり、それひとつで小室哲哉もフリッパーズギターもDragon Ashも浜崎あゆみも西野カナもすべて同じジャンルとして言い表すことができる、とても便利なことばへと変化したのだ。

一方、イギリスに住む人びとが"J-POP"と聞いて連想するのはなにか。まず音楽でいうと、BABY METALなどのアイドル、そしてX JapanやDir En Greyなどビジュアル系バンドの楽曲やビジュアル・イメージだ。そしてそれと同時に、日本のアニメやネオン・サインが溢れる夜の街の風景も思い浮かぶはず。たとえば渋谷や原宿を歩いて目にする多種多様な看板であふれる街並みや、パステル・カラーのファッションやキャラクター・グッズが立ち並ぶ店内の様子など、日本以外からみればCrazyとしかいいようのない風景も、イギリスでは"J-POP"と関連づけられるもののひとつである。つまり"J-POP"ということばが音楽だけにとどまらず、日本のミュージシャンとその周辺のカルチャーを広く指し示すために使われているのだ。

-sponsored link-

揺らぐ"J-POP"の背景にあるもの:きゃりーぱみゅぱみゅ

このように日本( 日本語 )とイギリス( 英語 )とで"J-POP"ということばの意味の捉え方が微妙にずれているのは非常におもしろい。それではなぜ、イギリスで"J-POP"が単に「 日本のポピュラー・ミュージック 」というニュアンスを超えた意味を持つようになったのだろうか。その背景には、欧米においてあらゆる日本のカルチャーがここ20年ほどで急激に浸透しはじめた状況があると思う。まず前提として、いまや日本文化として海外の定番となっている寿司やアニメ、NES( ファミコン )やSEGAをはじめとしたヴィデオ・ゲームなどの文化が1980年代くらいから90年代にかけて注目され、「 日本の文化っておもしろい 」というような風潮が海外に徐々に広まっていった経緯があるが、その流れはインターネットの普及した2000年代以降に一気に加速。定番の日本文化以外の分野にも海外から気軽にアクセスできるようになり、結果として先に挙げたような"kawaii"系のキャラクターやファッション、ビジュアル系バンドなど、それまであまり知られていなかった個性的な日本のポップ・カルチャーが"発見"され、広く海外に受け入れられるようになったのだ。

2016年のロンドン公演におけるきゃりーぱみゅぱみゅ©︎Sara Amroussi-Gilissen
2016年のロンドン公演におけるきゃりーぱみゅぱみゅ

なかでもきゃりーぱみゅぱみゅの存在はそのような広がりを進める役割としても、さらに"J-POP"のニュアンスを広げる存在としてもとても重要だったと感じる。2011年にリリースされた「 PONPONPON 」がYouTubeを通じてイギリスで爆発的な人気を獲得して以降、 彼女はBBC( イギリスの公共放送局 )で若者に「 Kawaii文化 」を広めた中心人物として紹介されたり、ロンドンの夕刊紙Evening Standardにおいて「 Tokyo is Trending: The Rise Of J-POP 」という記事の元「 J-POP人気の主人公 」として扱われたりしている。以来、少なくともイギリスでは、日本のポップ・ミュージックだけでなく、それを歌うミュージシャンが好むファッションやビジュアルイメージも"J-POP"ということばに含めるニュアンスが生まれた、と考えられる。

016年以降、Hyper Japan の会場として使われているオリンピア。O2アリーナやアールズ・コート・エキシビション・センターと並ぶ、ロンドン屈指の大規模なイベント施設だ©︎Rie Fukuda
2016年以降、Hyper Japan の会場として使われているオリンピア。O2アリーナやアールズ・コート・エキシビション・センターと並ぶ、ロンドン屈指の大規模なイベント施設

他方、イギリスにおける昨今の日本のポップ・カルチャー人気の勢いを象徴していると考えられるのが、ロンドンで毎年行われている英国最大級の日本文化イベントHyper Japanの盛況ぶりである。2010年に初めて開催されて以来、動員数が約1万3千人→約8万人( 17年 )と7年で6倍にも膨れ上がっている。さらには冬のクリスマスイベントも追加され、今や年間延べ13万人以上が参加する一大イベントとなった。さらには去年Wembley Arenaで行われたBABY METALのコンサート。ぼくが生まれて以降、日本のミュージシャンがロンドンのワンマンライブで1万人規模の会場を埋め尽くしたのはこれがおそらく初めてのことだ。

この"J-POP"の海外人気は「 COOL JAPAN 」の名のもと、経済産業省を通じて日本文化の推進に努めた日本政府の存在も大きい。賛否分かれるCOOL JAPANだが、上記のHyper Japanを経産省が支援していたことを考えると( 少なくともイギリスでは )それなりに日本文化の人気に貢献していると言ってもいいかもしれない。

ここで話をKKBに戻そう。現在のKKBの人気を下支えしているのはこれまで書いてきたようなイギリスでの"J-POP"ブームが大きく手伝っていることは確かだ。もちろん、それにくわえてユニークな楽曲、英語と日本語を音楽上でもナチュラルに使いこせるセーラの才能が( ぼくを含めた )ファンの心を掴んでいることも間違いないけれど。

イギリスは昔から他国の文化を取り入れることに積極的で、世界から移民が集まってきていたこともあり、ジャマイカ文化( AswadをはじめとしたUK産レゲエに加え、ドラムンベースやグライムにもジャマイカ音楽の影響が垣間見れる )、インド文化( Asian Dub Foundation、Cornershop、M.I.A )など、様々な文化を自国の文化とうまく融合して成功してきた歴史を持っているし、それこそが英国の強みでもある。Kero Kero Bonitoのケースは、その日本文化ヴァージョンと言ってもいいかもしれない。人種のるつぼともいえるこのロンドンで、これからもKKBのように「 文化の国境を超えた 」アーティストが出てくることに期待したい。

著者プロフィール

Ken profile photo

Ken Kobayashi

ロンドン在住の宅録シンガー・ソングライター。日本、ドイツ、イギリスにルーツを持つ自身のバックグラウンドとほとばしる好奇心を生かし、ラテン、ボサノヴァ、エレクトロ、ブリット・ポップなど多種多様なジャンルを咀嚼した良質なポップ・サウンドを奏でる。これまでに自主レーベルSound Dust Recordsより2枚のアルバム「 My Big Foot Over The Sky 」「 Maps & Gaps 」を、P-Vineより「 Like The Stars 」をリリースしている。最新作はシンガーKanadeとコラボしたシングル「 ハグ 」と「 アカイソラ 」。夢は世界一周。
Facebook / Twitter / soundcloud / instagram

-Features
-, , , ,

-sponsored link-

フォロー

simonsaxon.comをフォロー

関連記事

Copyright© simonsaxon.com , 2018 All Rights Reserved Powered by STINGER.