マーキュリー賞2018が待ち遠しい!【Ken KobayashiのロンドンところどころVol.8】

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ロンドン在住のシンガー・ソングライターKen Kobayashiによるコラム。さまざまな人種や言語が交錯する世界的文化都市であり、また自身の生まれ育った場所でもあるロンドンの街中で出会った、音楽やカルチャーにまつわるあれこれを綴ります。今回はイギリスの秋の風物詩のひとつともいえるマーキュリー賞のおはなし。

あっという間に2018年も9月。ロンドンでは涼しい日々が増えてくるこの時期になると、気になるひとつのイベントが開催されます…それは「マーキュリー賞」。1992年にはじまった、イギリスまたはアイルランド出身のアーティストがこの一年に出したアルバムの中からナンバーワンの作品を選ぶ音楽賞で、今年は9/20にロンドンのEventim Apolloで授賞式を開催、受賞者もその場で発表される予定だそうです。

DSC 5633 1©︎ Nao Okuno
会場のEventim Apollo。西ロンドンのハマースミス駅から徒歩1分の場所にある

マーキュリー賞とBRIT Awardsって何が違うの?

日本ではそこまで知られてないかもしれないけれど、イギリス国内でのマーキュリー賞のインパクトはすごい。受賞のニュースはBBCなどの大手メディアでも速報され、選ばれたアルバムのイギリスにおける売上やストリーミングの再生数は何倍にも跳ね上がるらしい。受賞したアーティストがまだ広く知られてない場合は、受賞をきっかけに一気に話題にあがるようになる。そう言えばぼくも、去年の受賞者であるSamphaをマーキュリー賞をきっかけに知り、その後、彼のアルバム「Process」を何度も聴いた。イギリス人なら、音楽好きじゃなくても、マーキュリー賞の存在ぐらいは知っているだろう。

イギリスにおける音楽賞といえばBRIT Awardsも有名だ。ただ、こちらはジャンルがポップ・ミュージックに限られていて、米グラミー賞と同様にカテゴリー別(イギリスと海外、それぞれが男性・女性ソロ部門、バンド部門など)に分けて表彰される。ぼくの印象では、すでに大人気のアーティストをカテゴリーごとに祝福する、どちらかと言えばサプライズの少ない賞だ。

その一方で、マーキュリー賞はすべての音楽ジャンルからノミネート作品が選ばれ、受賞するアルバムはその中からたったの1枚。しかも選考ジャンルの幅が広いことにくわえて、知名度がまだ比較的低いアーティストも対象となるから、ノミネート、受賞作品ともに誰が選ばれるのか予想するのがとても難しい。

「オールジャンルと言いながらクラシックやヘビーメタルのノミネートがほとんど無い」、「選考基準が明確じゃない」などの批判もあるものの、マーキュリー賞がイギリスの音楽業界全体が注目するイベントであることは間違いない。

具体的にマーキュリーの受賞アルバムを選ぶのは、ミュージシャンや、ラジオDJ、音楽ジャーナリストによって構成された12人の選考員だそう。今年の授賞式に向けて既に発表されたノミネート作品も、この12人が一緒に選んだという。それでは、今年のノミネート作品を見てみよう。

マーキュリー賞2018ノミネート作品ラインナップ

Noel GallagherやArctic Monkeysといった大御所にくわえ、以前このコラムで扱ったことのあるSons Of KemetやKing KruleグライムMCのNovelistも登場していて、ぼくとしては思わずニヤッとしてしまうリストだ。

ぼくはこのリストが発表されてから考えていた。仮にぼくが審査するなら、どのアルバムを選ぶかと。悩んだ末、答えが出たような気がする。ズバリ…ロンドン出身のポップシンガー、Lily Allenの4thアルバム「No Shame」だ!

Lily Allen「No Shame」を推す理由とそのほかの注目作

レゲエやヒップホップ、アフロビート、エレクトロなど、曲ごとに色んな要素を取り入れながらも、キャッチーなポップスを作り上げるLily Allenの作品世界はむかしから大好きだった。

ぼくにとってLily Allenの最大の魅力は彼女の紡ぎ出す歌詞だ。これまでのアルバムには、恋愛や友情について歌った曲のほか、消費者社会のダークな側面を歌った曲や、世の中が求める女性のイメージを批判した曲など、政治的なテーマに言い及んだものもあった。Lilyのことば選びは詩的ながらとてもダイレクトだ。彼女が生活していて思うこと、人間関係や社会について感じることなどを、彼女にしか出せないかたちで世界に放っている気がして、「これこそホンモノのアーティストだなあ」と感心するばかりだった。

NO SHAME [12 inch Analog]Lily Allen「No Shame」アートワーク

さて、そんなLily Allenの今回ノミネートされたアルバム「No Shame」は、「恥なんてない」「恥知らず」とも訳すことができるタイトルのとおり、これまでよりも彼女の内面に深く触れ、プライベートな部分も堂々とさらけ出した作品だ。「Your Choice」や「Lost My Mind」では自身の離婚について赤裸々に歌っているし、「Trigger Bang」では若いときの自堕落な生活が語られている。ぼくが特に感銘を受けたのは9曲目の「Three」。Lilyが3歳だった当時、母親が彼女を独り家に残して出かけて行ってしまうときの寂しい気持ちをバラード風に歌う声を聴き、ぼくは恥ずかしながら泣いてしまった。

そして意外にも、Lily Allenはマーキュリー賞の受賞どころかノミネートされたことすら今回が初めてだという。いままでのキャリアを讃える意味でも、ぜひ今年は彼女に受賞してほしいところだ。

ちなみにLily Allenがリストになかったら、次点はSons Of Kemetの「Your Queen Is A Reptile」かなあ。ジャズのレコードはこれまで何度かノミネートされている反面、受賞したことは一度もないからだ。以前のコラムでも触れたように、いまUKジャズはまたとない盛り上がりを見せていて、このタイミングでコレを選ばずしていつ選ぶのか?という感じもする。

ほかにもスピード感溢れるEverything Everythingの新作や、UK R&B界を担うの次世代のスターJorja Smithのデビューアルバム、ドリームポップバンドWolf Aliceの「Visions Of A Life」も注目なんですが、説明しだすとキリがないので今回はこのへんでやめておきます…

マーキュリー賞2018をより楽しむためのプレイリスト

その代わりに、ノミネートされたアルバムのなかからぼくのオススメ曲をまとめたspotifyプレイリストを作りました。単純にイギリスでいま人気のある音楽を知るためにも役に立つと思うので、みなさんぜひチェックしてみてください。そして9/20の受賞者発表を、ワクワクしながらいっしょに待ちましょう!

著者プロフィール

Ken profile photo

Ken Kobayashi

ロンドン在住の宅録シンガー・ソングライター。日本、ドイツ、イギリスにルーツを持つ自身のバックグラウンドとほとばしる好奇心を生かし、ラテン、ボサノヴァ、エレクトロ、ブリット・ポップなど多種多様なジャンルを咀嚼した良質なポップ・サウンドを奏でる。これまでに自主レーベルSound Dust Recordsより2枚のアルバム「 My Big Foot Over The Sky 」「 Maps & Gaps 」を、P-Vineより「 Like The Stars 」をリリースしている。最新作はシンガーKanadeとコラボしたシングル「 ハグ 」と「 アカイソラ 」。夢は世界一周。Facebook / Twitter / soundcloud / instagram

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