沖田修司「横道世之介」レビュー フェリーニ的道化師の気配

Posted :20/03/2014 , Modified :

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先日WOWOWで放映されていた「横道世之介」を観ました。

作品データ&あらすじ

沖田修司監督による2012年公開の日本映画で、悪人で知られる吉田修一氏の同名小説が原作。脚本は小説家で劇団「五反田団」の主宰である前田司郎さんです。主人公の横道世之介役は高良健吾、ヒロインの与謝野しょうこ役には吉高由里子を起用し、そのほか池松壮亮や綾野剛、伊藤歩なども出演しています。
dvdサイトに載っているストーリーは以下の通り。

長崎県の港町で生まれた横道世之介(よこみちよのすけ)は、 大学進学のために上京したばかりの18歳。
嫌味のない図々しさを持ち、頼み事を断りきれないお人好しの世之介は、周囲の人たちを惹きつける。
お嬢様育ちのガールフレンド・与謝野祥子をはじめ、入学式で出会った倉持一平、パーティガールの片瀬千春、 女性に興味を持てない同級生の加藤雄介など、世之介と彼に関わった人たちとが過ごす青春時代(1987年)。
彼のいなくなった16年後、愛しい日々と優しい記憶の数々が鮮やかにそれぞれの心に響きだす---。

引用元:バンダイビジュアル | 横道世之介

というわけで、ざっとデータ的なものを並べてみましたけれども、公式ストーリーにも彼(横道世之介)がいなくなることが書いてあるので、ここから先は大いにネタバレしながら書いていきたいと思います。

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感想

沖田修司監督の映画作品は初めて観たのだけど、これはすごく好感が持てる作品でした。映画史に敬意を払っている、というと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、過去の名画のイメージを感じさせる場面がところどころに現れるので、観ていてとても楽しい。私自身それほどたくさんの映画を観ているわけではないので具体例を挙げろと言われてもなんとなく口をつぐんでしまうのですが、明確に挙げられる部分は例えば冒頭に出てくる電車のシーン。車内でおにぎりを食べる世之介にたいして、対面の席に座る子どもが奇異の目を向けるという場面は、「たんぽぽ」や「マルサの女」で知られる日本映画の鬼才、伊丹十三監督の作品などを思い起こすシークエンスでした。ほかにも世之介と祥子が降り出した雪の中戯れるシーンなども、どこかしらでみたような雰囲気を感じさせたので、おそらく何かの作品の引用なのかもな、なんて思いながら作品を観続けていました。

正面に座る子どもが世之介を訝しむシーンには伊丹十三的モチーフを感じさせる

冒頭の電車シーンはもしかすると伊丹十三、というほどのものですが、これは明確にこの人のオマージュであると言える箇所がもう一つあるのです。それは世之介が東京に出てきて初めて実家の長崎に帰省した際にカメラが捉える最初のシーン。東京から長崎に切り替わる場面の最初に捉えられるのが、独特の雰囲気を醸した地元の漁師らしき老人で、しかもなぜかこちら(カメラ)をじっと見つめている。それが数秒続いたあとに、カメラは上手から下手へと平行移動し、止まった先に世之介の乗ったバスが現れて、物語が再び進行していく。この一連の流れはフェデリコ・フェリーニの影響以外の何物でもないですね。

フェリーニと聞いてみなさんが最初に思い浮かべるものは何でしょうか。それは人それぞれかとは思いますが、一つはソフィア・ローレンやクラウディア・カルディナーレなどグロテスクなまでの美女であったり、あるいはマルチェロ・マストロヤンニやドナルド・サザーランドなど、本来的な意味で"ダンディー"の極みのような男たちであったりするかもしれません。またはニーノ・ロータの寄せた甘い音楽、という人もいるでしょう。もちろん彼らや音楽も素晴らしい。けれど、私にとっては、先に挙げた独特の雰囲気を醸した登場人物たちが視線をこちらに合わせてくる奇妙な演出法と、道化師のモチーフこそがフェリーニだと考えています。
唐突に道化師、というワードを繰り出してしまいましたが、いわゆるサーカスに見世物として出てくるピエロのことです。ご存知のとおり、彼は子どもの頃にサーカスの道化師の見世物をみて以来、「I Clown」なんて半ドキュメンタリーTV映画を撮ってしまうくらい、道化師に対する深い思い入れがある監督です。道化師には大きく分けてショーを取り仕切るクラウンと、馬鹿げた役回りを演じて笑いを誘うオーギュストという二つのタイプがあるのですが、フェリーニはかつてその道化師について以下のように語っていました。

 「白い道化師(※クラウンのこと)は優雅、気品、調和、聡明、明噺を代表するが、これらの性質は理想的で、ユニークで、疑問の余地のない神性として道徳的に位置づけられている。だから、オーギュストにはこれらの否定的側面が持たされる。というのも、こんなふうに白い道化師は-母、父、教師、芸術家、美しいものに、つまりつくりあげねばならないものになるからである。一方、オーギュストはこれらの完壁な特徴すべてが、あまり口うるさくなく見せられるときにだけ心をひかれそうになるが、ふつうこれらに反抗する。
 オーギュストはズボンを汚す子ども、この完壁さに反逆して酔っ払い、床の上を転びまわり、はてしなく抵抗する子どもだ。これは誇り高き理性信奉(唯美主義という傲漫な形式になる)と、本能の自由とのあいだの闘争である。白い道化師とオーギュストは教師と子ども、母親と幼い息子、そして輝く剣をもつ天使と罪人でさえある。つまり、彼らは人間の二つの心理的側面である-一つは上昇志向の、もう一つは下降志向の二つに分かれた、分離した本能である」(『私は映画だ』)

引用元:クラウン断章-第1回

フェリーニはこの二つのタイプの中でも特にオーギュストのほうに思い入れを強く持っていたようです。これは私の想像ですが、上で語られているように、クラウンという理性に対する反抗というそのスタンスもさることながら、完全なものに対する不完全さ、あるいは子どものように成熟しきれない態度を思いきり肯定し、この世に存在価値を見出すものとしてオーギュストを捉えていたからこそ、フェリーニは厚くその存在を愛していたのではないでしょうか。

と、ここまで考えてみたときに横道世之介の話に舞い戻ってみると、世之介も主人公ながら多分にオーギュスト的、もっと広げるなら道化師的なところがあるような気がしてならないのです。
特にそれを感じるのは、恋人、子どもができて学生結婚することになり世之介にお金を借りることで窮地を脱することができた友人、ほとんど毎日行動を共にし、世之介に人生で初めて同性愛をカミングアウトできたほどの付き合いをした友人など、世之介に深く関わった人がことごとく、時が経ってほとんど世之介のことを記憶の片隅に追いやってしまっていることです。片隅に追いやるどころか、人によっては忘れてしまってさえいる。「時の流れとは残酷」なんて定型概念で括るにはあまりに辛いことではないでしょうか。なぜ彼らは世之介のことを頭から追いやってしまったのか、ということを考えると、はたして彼がそれくらいの存在であったということなのでしょう。どんなに深く関わっていても消えかかる記憶の中に収められてしまう存在。はたして思い出されたとしても、みなにやにやと笑いながら、口を揃えて「おもしろいやつだった」としか言わない。世之介が死んだことを受けて、両親にまでも「彼を思い出すと笑ってしまう」なんて言われてしまう。それはまるで子どもの頃に訪れたサーカスのショウでみたピエロ達の姿を思い起こすような口ぶり。
とはいえ、そんな風に彼を扱う人が最低の人間たちだ、なんてことを言うつもりはなく、むしろその逆です。大人と子どものモラトリアムな時期にいる人間にとって、世之介のような道化的存在がいることはとても幸せなことのようにも思えるのです。今を生き、自分と関わる人間達とは共有できないけれど、私においては思い起こすだけでポジティブな感情を与える存在。まさにそれこそ道化師の本質的な役割であり、フェリーニにとっての道化師とイコールで結ばれるのではないでしょうか。

なんてことを、帰省のシーンで大きく映った年老いた漁師らしき人を観て考えたりしました。

まとめ

最後に一つだけ豆知識的に付け加えさせていただきますが、原作者の吉田修一氏によると、この横道世之介の横道、というのは長崎の方言で「横着者」を意味する「横道もの」という言葉から由来しているということです。なんとなくそのエピソードも世之介の道化師ぶりに拍車をかける気がしますね
ともあれ、そんな解釈は別にしてもこの映画、80年代ノスタルジーに溢れた空気感を楽しめる映画でもあります。ブルーリボン賞も受賞して社会的にも評価されているみたいなので、気になった方は是非一度見てみてください。

関連リンク

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