庵野秀明「シン・ゴジラ」レビュー

Post Date:07/08/2016 Modified Date:

  

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話題の「シン・ゴジラ」、遅ればせながら観に行ってきた。もっと家から近い上映館があるにもかかわらず「ゴジラ観るなら品川でしょ」という浮ついた気持ちを抱えてしまったがために、わざわざ1時間くらいかけて品川まで行って観た。

SNSでみかけた感想では100%の人がおもしろいと言っていたシン・ゴジラは、噂に違わず確かにおもしろかった。というより、全体を通してどこかで観たことがある気がする、おかしいと思っているけれど自分の力ではどうすることもできない社会的行動がたくさん描かれているので、現代(少なくとも2010年以降、広くみると第二次世界大戦から後の)日本でまともに生活する人なら必ず面白いと感じるように作られていた、と言ったほうがいいかもしれない。
たとえば役所や官僚、政治家、自衛隊を含む公務員による絵に描いたような縦割り業務と、ワンストップなんてことばはどこ吹く風、というような彼らによるたらい回し。トップto現場への意思伝達にかかるプロセスの多さ。国益最優先で無慈悲な日本以外の外交、特に日本に対する横暴とも言える難題の押しつけ。それになす術無く従わざるを得ない日本政府(いわゆる形骸化している「対米従属を通じた対米自立」の典型)。出世するしないの政治的駆け引き。あるいは民間では、国会前で「ゴジラを倒せ」というシュプレヒコールを夜中まで訴えかけるデモの集団。変わったこと(劇中ではゴジラの出現)が起きると、眼で観察するより先に一斉にスマホを向ける人々。

上に挙げた例はほんの一部で、映画の中で提示されるそのような「ちょっとおかしい現代における社会的行動」のパターンは大量にあるので、どこかの誰かにとっての個人的”あるあるネタ”が作品内で確実にひとつ以上は存在すると思わせる。加えてそのどれもがユーモアとして機能しているし、ある人は政治の話が多いこともあって、もっとストレートに怒りを増幅させるかもしれない。つまり感情を揺さぶられる要素がまるでインターネットのようにはり巡らされているので、そりゃみんなおもしろいって言うよね、という感じです。

それにしても前半から中盤にかけての展開のスピードと情報量は異常だった。1回観ただけでは絶対にすべてを把握することなんてできないだろう。あなたが蓮實重彥でもない限り。とはいえ、与えられる情報のうち8割を無視しても話は追えるようになっているので、制作側も我々がすべて把握しようとすることなんて望んでいないでしょうね。

ゴジラは自然か、それとも人間か

この物語の最大のスペクタクルである「人間の生み出した技術でゴジラを無力化させる」という場面(と、それから類推される特定の思想)について、わたしは庵野秀明さんの考え方に同意できないが場合によっては同意できるかもしれない、という感じ。それはゴジラの存在を自然の脅威と捉えるか、それとも人間(や彼らの作り出した科学技術)の鏡像と捉えるかによって変わる。1954年公開のゴジラ第1作では「核実験によって古代の生物が目覚めた」という設定から明らかにゴジラは自然(歴史と置き換えてもよし)の象徴だったと思う。しかし今回は突然発生した放射性モンスター、という感じであまり明確な由来が示されていないので、単純に生物(人間以外の自然)と捉えていいものだろうか(ゴジラが大田区に上陸し街を破壊していく姿には東日本大震災の、特に東北の被害を思い起こさずにはいられないので、ゴジラは"自然"と考えるのがある程度正しいのかもしれない)。あるいはゴジラの生物的な特徴や、原発事故、放射能をめぐる現代日本の状況から考えて「人間の生み出した人間を滅ぼす存在」として捉えるべきなのか。どうもはっきりしない。あえてはっきりさせてないのかもしれないけれど。とにかく、ゴジラがネイチャーなら「人間が自然を治められると思うなよ」というわたしのなかのパンク・ムーヴメントが顔を出すし、科学技術が生み出した悲劇と捉えるなら「ですよねー」、って感じです。

ストーリー以外の話。

エヴァのときから市川崑オマージュを繰り返す庵野秀明さんはこの映画でももちろんやっていたが(わかりやすいのは文字フォント)、この映画に限ってはむしろ第1作ゴジラの監督である本多猪四郎が おなじく監督を務めたゴジラシリーズ3作目「キングコング対ゴジラ」で市川崑「鍵」のパロディをやっていたことを受けた間接的な本多猪四郎オマージュ、すなわち原点に対する徹底的な敬意として機能している、と考えてみることもできる。

ほかにはアカデミックの枠から思考を展開できない学者3人が 演じる役者が実際に映画監督だったり、あるいはビジュアルが映画に関わる特定の誰かを模していたりするのがよかった。戦闘機を破壊する特撮シーンの円谷英二(ファーストゴジラの特撮監督)リスペクトもいい。空をバックに戦闘機をひとつだけ映してすぐ爆発させるやつ。終盤に出てくる ノートPCの画面の裏越しに顔をのぞかせる市川実日子さんのかわいさも強く脳裏に焼き付いている。石原さとみは日系アメリカンの役をやらされていてかわいそうだった。日本人スチュワーデス(国内線)みたいな発音の英語では、どうやってもアメリカ人(英語ネイティヴスピーカー)にはみえないですよねえ。あれは石原さとみをねじ込んだ(彼女だけスタイリスト別注だったから勝手にそう思っている)キャスティングの人、あるいは所属事務所のホリプロが悪い。

ファースト・ゴジラファンとしては、ゴジラがちゃんと東京の玄関口(羽田空港。ファーストゴジラのとき空港はなかったので陸路の入り口品川だった)から入ってきたし、伊福部昭によるテーマソングと自衛隊マーチがオリジナル音源で使われていたのですごく満足です。

なんて、なんとなく熱狂する観衆に対して冷笑的なこと言ってる感が出ちゃったけれども、観てるあいだに三回泣いた(特に中盤の山場であるゴジラによる都心部破壊は身に詰まされるものを感じて号泣した)し、それ以上の回数笑った。つまり難しいこと抜きで単純にめちゃくちゃ楽しめる映画だった。観た人といっしょに色々と話したくなる、すてきなエンターテインメント。エンターテインメントついでに言うと、はとバスあたりはこの「シン・ゴジラ」でゴジラが行った場所、壊したものを巡る観光ツアーなんか組んだらどうでしょうね。観賞後すぐ品川から東京駅に行って(上野東京ラインなんて便利な在来線爆弾があるので)、冒頭のような写真を撮ってしまうような人ならすぐに参加してしまうと思います。

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