小津安二郎「お早よう」レビュー 小津のディズニー、小津のトム&ジェリー

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小津安二郎監督の名作「 お早よう 」を観ました。

八丁畷にある集合アパートに住む中流家庭の子どもたちの姿、とくに実( みのる )と勇( いさむ )という兄弟を中心に描いたこの作品。あまりに有名なのであえて各必要もないかもしれませんが、親の目を盗んで宿題をやらずに若い夫婦のご近所さんのところにテレビを観に行って怒られたり、大人たちは婦人会の会費を渡した渡してないで揉めたり陰口を叩かれたり、「 しゃべりすぎだ、これからずっと黙っていなさい 」と怒られて今でいう逆ギレを起こしたみのるちゃんがなかばストライキ( というか小さな抵抗 )気味にホントにしゃべらなくなったり、といった日常の風景を淡々と、ユーモアを交えて描いています。かつて山本晋也監督は今作のテレビ放映時「 小津のサイレント作品『大人の見る繪本 生まれてはみたけれど』の延長線上にある作品だ 」と言っていましたが、まさしくそのとおりだと思います。

この映画は小津独特のユーモアが光る作品だ、みたいに言われているが、みのるちゃんといさむちゃん( いつも同じ服を着ている )の親分子分感や、いさむちゃんの去り際のアイラブユー、彼らの動きに合わせて効果音が鳴る、などの演出的なディテールからみると、小津はこの作品でたとえばフライシャー兄弟の「 バッタ君街へ行く 」とか、トム&ジェリーとかみたいな、もっと言うなら初期のディズニーの短編映画( 蒸気船ウィリー号とかファンタジアとか )のような、アメリカ・ハリウッドのアニメ映画みたいなものを自分の手で撮ろうとしていたのではないか、なんて考えてしまう。少なくともこれほどたくさん米アニメ映画を思わせる演出( やプロット )が出てくるのだから、かなり参考にしたに違いないですね。
何より物語の縦軸、集合アパートの子どもたちの間で流行している頭をこつんと小突くとぷうとおならをする遊び( 「 生まれてはみたけれど 」で、手を顔の前にかまえて念じるとその場にいる子どもたち全員が倒れる、という遊びの発展系というか亜系 )、おならの音で人を笑わせるギミックは、欧米だと赤ん坊でも一番最初にやろうとする笑いにおけるベタ中のベタというのもその考え方を加速させる。アパートに現れる押し売りグループのやり口( 最初怪しい、というか少々強引な押し売りを訪問させといて買おうと買わずと治安悪化のイメージを住民に植え付けておいて、強引な押し売りが退いたあとすぐに彼の仲間の押し売りが警報ブザーを真面目な語り口で売りにくる )とか、強引な押し売りの追い払い方( 包丁もって脅す )というのも、すごく外国風の手法に見える。
そんなこの映画に雑誌的なキャッチフレーズを付けると「 米国の一般的笑いのエッセンスを小津の美意識や映像的エレガンスで包んだ気持ちのよい作品 」という感じでしょうか。言い過ぎかもしれないけれど。

実はこの映画を観たのは二度目なのだが、初めて観たときはラスト付近に出てくる八丁畷駅の景色や、テレビを持ってる若者カップルの片割れ・泉京子さんのグラマラスさばかりに気を取られていた気がする。やっぱりいい映画は何度も観るべきですね。

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