ペドロ・アルモドバル「アイム・ソー・エキサイテッド」レビュー

Post Date:09/03/2015 Modified Date:

  

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ペドロ・アルモドバル監督の「アイム・ソー・エキサイテッド」を観ました。

日本では2014年に公開されたこの映画。冒頭でいきなりアントニオ・バンデラスとペネロペ・クルスという、スペインが誇るハリウッドスターで、アルモドバルの過去二作の主演を務めた俳優二人が出てくるなど、近年のアルモドバル映画のなかではかなり派手な、エンタテインメント性を前面に押し出した映画になっていると思います。

映画公開時、オフィシャルHPに掲載されていたストーリーでは、

メキシコシティに向かうためにマドリードから飛び立ったジェット機は、機体トラブルによって上空を旋回し続けてしまう。そんななかビジネスクラスの客室乗務員を担当するオカマの三人組は、乗客を少しでも落ち着けようと、踊ったり歌ったり、更には謎の物体を入れたカクテルを作ったりする。しかし非常に曲者の客室乗務員に対して乗客も非常にクセモノだった。不吉な予言をしてくる女占い師、そして無茶なクレームを繰り返すSMの女王様、べろべろに酔っ払った新婚カップル、最後の仕事を完遂させようとしている殺し屋などなどなどなど、いかにもな乗客たちが、非常事態を更なる異常事態へと向かわせていく!

引用元:映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』から始まるコメディー映画、笑いの旅行記!!

の様に書かれていますが、要はペネロペとアントニオ・バンデラス二人が車輪止めを外し忘れたため緊急着陸することになったマドリー発メキシコシティー行き航空機内の、ホモセクシャルの男性パーサー三人がアテンドするファーストクラス客室(とコックピット)で繰り広げられる航空パニックムービーですね。
一応コメディなのですが、アルモドバルが我々に提供する笑いのヴァリエーションが同性愛を中心として具体的な行為にまで言及するグロテスクな下ネタと、スペインにおいて下ネタと同じ暗い日常でポピュラーなドラッグネタを容赦なく繰り出す、というパターンしかなく、そういうのが苦手な人は観ていて笑えない、どころか怒りすら覚える程つらい、と感じてしまうかもしれません。ヤン・シュヴァンクマイエルが「サヴァイヴィング・ライフ」の冒頭でヒッチコックのように登場し「この映画は笑えない精神分析コメディだ」と言っていたが、この映画もそんな感じ。実際IMDbの評価も驚くほど低いです。
とはいえこの映画が楽しめたのは、流れの中で急にロマンティックなムードになったり、パーサー三人が突然踊りだしたり、かと思えばファーストクラスが超性的カオスな空間になったりと、いろんなことがほとんど脈絡なく次々と起こり続けるところにあります。しかも、航空機内で起こったことは結末には全く何も影響を及ぼさないところなんかにも痺れました。機内の状況とは全く関係なく、機長はアクシデントに対して適切な処置を行い、機体は無事に不時着する。この映画でメインに据えられている乗客の人生に関わるごたごたは、そういった理性的なコントロールに何の影響も受けないし、また何の影響も与えない、なんてことを言おうとしているのは明らかだと思います
さらに言うならこの映画の主人公、というか狂言回し的な役割である三人の客室乗務員はさしずめおとぎ話でいうところの妖精のような存在で、彼らの施しを素直に受け入れた乗客はみんな幸せになり、彼らの意見を無視すると不幸になる、というような構造になっているところもすごくよかったです。彼らがホモセクシャルである必要はまったくないのだけど、アルモドバル自身も同性愛者であり、かつどの映画でも主要キャラクターとして出てくるものだからしかたないですね。
ちなみに原題はlos amantes de pasajeros。日本語で言うと客室の恋人、と言ったところでしょうか。邦題は劇中で印象的に使われるpointer sistersの同名曲から採られています。

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