アダム・グジンスキ「メモリーズ・オブ・サマー」の雑然とした感想

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ポーランドの監督アダム・グジンスキによる2016年の映画「メモリーズ・オブ・サマー」を観ました。82分という短い上映時間がとてもよく似合う、軽やかながら観たものすべてに何かを残すだろう作品だった。

あらすじ

舞台は1970年代末、ポーランドの田舎町ポズナンに住む少年ピョトレックがある年の夏休みのあいだに経験した、都会から来た女の子マイカとの出会い、母親とのすれ違い、そして順調とは言い難いが確かな人間的成長を、美しい風景や端正な画面を散りばめて丁寧に描いており、公式サイト曰く"あたらしい夏休み映画"とのこと。いわゆるボーイ・ミーツ・ガールもの青春映画とは一線を画した内容、ということですね。映像は同じくポーランドの名匠イェジ・スコモリフスキの「アンナと過ごした四日間」や「エッセンシャル・キリング」にも参加したアダム・シコラが撮影監督を務めているという。ちなみにグジンスキ監督の映画が日本で公開されるのは今回が初めてとなるらしいです。

雑然とした感想

外国に出稼ぎに行った夫の不在に耐えきれず、ピョトレックを置いて「職場の鍵をかけ忘れた」などの取ってつけたような理由を言いながら着飾っては特定の誰かに会いに夜の街へと繰り出していく母とのストーリーと、マイカとの淡い恋物語がいつしか混ざり合い、不穏な結末へとすすんでいく展開が素晴らしかった。印象に残っているのは、中盤あたりに出てきた母親が夜に出て行ったあとを尾けていったピョトレックが程なくして彼女を見失い(あるいは良心の呵責によりあきらめ)、追うのをやめて暗闇の中に母親の背中が消えていったのを見届けたすぐあとに同じ場所からかわいいシカの子どもが出てきてピョトレックをじっと見つめる、というシークエンス。彼がまだその時点では"子ども"の側にいることを的確に示す美しいシーンだったし、一際幻想的なシーンだったと思う。

正直言って劇中に登場する女性はみんな男性に寄り添って生きることを無意識に選び、自由をすすんで手放しているように見えたのだけど、抑制の効いた語り口によってそれらもまた魅力的に映るのだから映画って不思議ですよね。

アンナ・ヤンタル

劇中で度々流れるアンナ・ヤンタルの曲もとても印象深かった。驚くべきことにspotifyにアルバム全部あるので、この映画を観た後あなたはアンナ・ヤンタルばかり聴く日々を過ごすこと間違いなし。東欧的メロディやリズムを当時の世界的ポップス・マナーで覆った日本人にとってのレア・グルーヴ。彼女は1970年代のポーランドを象徴するような国内のスター・シンガーだったそうで、映画のタイトルも彼女の曲の歌詞から採られたものだそう。

あとマイク・ミルズ「20th Century Women」との共通点がたくさん。舞台設定の年代と季節をはじめ、少年と彼の周囲にいる母親を含めた女性との関わりの話であること、そして音楽が印象的に使われていることなど。「20th〜」がお好きなかたは、この映画を観ることで70sにおける母親と息子の2人暮らし家庭の米波比較をしてみるのもいいかもしれませんね。

まったく別の場所から見れば、女性と視線の映画、とも言えるかもしれない。わたしたちは劇中のほとんどでピョトレックの眼を借り、彼の瞳に映ったものをそのまま観せられる。そこに映る女性(おもに3人)はみんな魅力的、というのとは少し違うがいやに生々しく、ポジティヴな面もネガティヴな面も明け透けに表れている。少なくとも相当にシネジェニックであったのは間違いない。つまりこれもまた映画史に脈々と連なる、「映画とはなにか」というものを映画によって果敢に表現しようとしている作品のひとつなのだろう。

なんだかとりとめもない感想になってしまいましたが、とにかく、出会えてよかった映画でした。

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