ホセ・ルイス・ゲリンによる「アナへの2通の手紙」解説

Post Date:30/05/2014 Modified Date:

  

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前回エントリーで5/5にイメージフォーラム・フェスティバル2014で上映したホセ・ルイス・ゲリン監督の「ある朝の思い出」を取り上げましたが、同じ日にこれまた彼の監督した中篇作品「アナへの2通の手紙」も上映され、こちらに関しても監督自身によるコメントを聴くことができました。

参考リンク:ホセ・ルイス・ゲリン監督自身が解説する「ある朝の思い出」【イメージフォーラム・フェスティバル2014ティーチイン】

作品データ

「アナへの2通の手紙」は、2011年にスペインのセゴビアにあるエステバン・ビセンテ美術館にて行われたエキシビション「コリントスの女(La dama de Corinto)」における視聴覚インスタレーションとして作られたもので、30分弱の上映時間の中で「アナ・ポルティナリへの手紙」と題されたパートが2つ続く二部構成になっています。それぞれ2011年11月に出された手紙、という形式をとっていて、そのせいもあってのことかもしれませんが、映像の大半をテキスト(文字そのもの)が占めているという、いかにも芸術映画らしい作りになっています。

美術館でインスタレーションとして展示していたときには、さらに10秒〜3分ほどの長さの24のパートに分けられていたそうです。24、というのはもちろん映画の1秒間におけるコマ数に合わせた数字とのことです。

内容としては、古代ギリシャの大プリニウスによる「博物誌」というテキストの一部に着想し、そして映像にも実際にテキストを引用しつつ、映画の根源を探るような映像が構築されています。前述したテキストのほかには、ゲリン自身がギリシャ文明の遺産を訪ねた際に撮影されたフッテージだとか、男女のダンサーによる引用されたテキストにインスパイアされた踊りのシークエンスなどのシーンが映されていました。

その他より詳しい情報は、こちらのページにアクセスしてみてください。

ホセ・ルイス・ゲリンによる解説。

データ的な話はこの辺にして、ゲリンによる作品解説を以下に載せます。

この映像インスタレーションを制作するにあたって、エステバン・ビセンテ美術館からは「普段映画監督としては出来ないことを探求してほしい」と言われていました。そこで私は、サイレント、モノクロ、テキストイメージの多用など、こんにち映画を作るとなると採用することが難しい技法を取り入れた映像を作ることが出来ました。

先に述べたように、この作品にはたくさんの文章やテクストが流れてきますが、そういった演出は私自身好んで使いたいものなのです。というのも、私にとっては言葉そのものが"イメージ"のひとつだから。普通の映像的なイメージであっても、ただ漠然と受動的にみているのではなく、文字と一緒で映し出されたものを観客自身で読み込まなければいけないものです。そう言った意味では、私の中ではテキストと映像的イメージは同等に扱われているのです。

今回のこのインスタレーションは、映画について多少ポエティックに考察したものであるといえるでしょう。展示期間中は24篇に分かれていましたが、それらがスクリーンで上映されるということも大事なことだったと感じています。というのも、インスタレーションですからそこには立体的な、三次元の要素もあり、それとスクリーンという二次元との絡み、というのも重要なものだったように思えるのです。

内容に関して言えば、これは映画がどのように生まれたか、というその過程を映画というスタイルを使って提示してみたい、という気持ちから出来ています。インスタレーションのタイトルでもある「コリントスの女」というのは、イメージがどのように生まれたかを教えるギリシャ神話のひとつで、私はこの神話に激しく心動かされました。ろうそくの炎によって投射された人物の影の輪郭を壁に描くという行為は、光源からスクリーンに投射するという、映画に通じるものがあるように思えますし、そこには映画の起源も、絵画の起源も含まれていると思えるのです。

とはいえ、この映画はギリシャ神話だとか、ドイツのロマン主義からの引用が多く、日本で公開するには西洋的すぎるかもしれないので、観客のみなさんには少し申し訳なく思っています。私は本来、映画というものはユニバーサルなものであるべきだと考えているので、西洋的なものに偏る、というのは本意ではありません。例えばこの映画のように、題材がマイナーな、多くの人に知られてないようなものでも、そこに描かれるのはユニヴァーサルなものであるべきだ、という考え方が、私が映画監督としてベースに置いているものでもあります。

最後に。

以上が今回のティーチインでゲリン監督による「アナへの2通の手紙」の解説です。

最後にもう少し内容に触れるとしたら、この映画はかつて「影の列車」で見せたようなゲリンの映像的変態性、というより細かいカットバックや、大きくクローズアップしたりメインの被写体に、別のオブジェクトの影を被せたりしながら、敢えて全体像を映さない、といったような手法が存分に現れていて、非常に映像的スリルに溢れていたと思います。ストーリーも今までで一番ダイレクトに映画の根源、映画とはなにか、ということに対するゲリンの探究を感じることができて素晴らしかった。これまではどちらかというと歴史的な考察よりも「映画とは何か」ということに対してゲリンが考えていることを、映像体験として表現しているような映画を残していた印象があったのですが、今回はテキストそのままに概念を映像で伝えているように思えました。

他方、これまで映画の起源としては、一般的に言われているようなリュミエール兄弟とか、劇映画としての起源であるジョルジュ・メリエスとかの19世紀末の話はもちろんですが、巖谷國士さんが著書「映画 幻想の季節」の中で語っていたように、近世の見世物小屋で行われていたシーツに影を投影して劇をみせるファンタスマゴリーやゾエトロープが生まれた18世紀末にまで遡る考察は聞いたことがあったのですが、この映画のように人間の文明の起源に近い古代ギリシャに伝わる神話から始める、というのは初めてでした。ですから、それだけでもう充分刺激的な、歴史を覆すような試みであるかのように感じられるのもまたこの作品の素晴らしさであるかのように思えるのです。

ともあれ、先日イメージフォーラム・フェスティバル2014にてみた二本のゲリンによる映画は、どちらも人間の芸術表現の根源を揺さぶる素晴らしい作品だったと思います。しかし残念なのは、日本ではなかなか観られる機会が少ないことでしょう。現在紀伊國屋書店の映画レーベルがソフト化に向けてがんばっている、というような噂を聞きますが、是非とも実現させてほしい、そして皆さんも素晴らしい映像体験ができるようになることを切に願ってやみません。

関連リンク

ホセ・ルイス・ゲリン・フィルモグラフィ José Luis Guerin Filmography - カタルーニャの映画作家ホセ・ルイス・ゲリン The Catalan filmmaker José Luis Guerin

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