中央公論新社より刊行されたマンガ短編集「 谷崎万華鏡 」を読みました。
昨年の10月までWeb上で連載されていた谷崎潤一郎原作のマンガを紙にコンパイルし直した単行本で、あたらしいコミックCUE、あるいは谷崎潤一郎マンガ化計画といった趣のアンソロジー。装丁がステキ。表紙の絵は中村明日美子さん。
帯を見てもらえればわかると思うがとにかく参加しているメンツがすごくて、ゆえに当然虚飾なく全部おもしろいのだけれど、なかでもやっぱり21世紀のメジャー・シーンにおける耽美を宇野亜喜良氏とともに背負う男a.k.a.古屋兎丸さんの描く「 少年 」がすごくよかった。わかりやすくトラウマティックというか、刺激が強いあまり反射的に「 キャッ! 」と叫んで顔を手でおおってしまうがその手の指のすきまからいつまでもじっと眺めていたいタイプのマンガ。古屋氏がこのマンガもNHK「 漫勉 」でみせた制作風景と同じく上下ジャージで腰に負担をかけないよう高めに設定された机に立ちっぱなしで向かって描いてるのか、と思うとさらに楽しい。他に山口晃氏の描いていた「 台所太平記 」は今すぐにでも小説を手に入れて読みたいと思わせるものだった。あとは高野文子の新作が載っていることがそれだけで素晴らしい。
これまで谷崎の作品には読みかけのままになっている文章読本と市川崑の映画「 鍵 」くらいでしか触れたことないような人生を歩んできたが、このアンソロジーで一度にたくさんの谷崎の世界に浸かったおかげでもっと早く触れておけば今のような自分にはなっていなかったはずだとこれまでの人生を後悔したり、いやむしろもっと早くに彼の作品に触れていれば今のような自分にはなれてなかっただろうとこれまでの人生を肯定できたりと、なんとも痙攣的な気分にさせられた。結局美とはそういうものなのかもしれません。
中央公論新社
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