岡本仁×小西康陽、渋谷系を語る【SPBS『ぼくの渋谷案内。』発売記念トークイベント】

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去る3月30日にSHIBUYA PUBLISHING BOOK STORE( 以下SPBS )で行われた編集者・岡本仁さんと小西康陽さんの対談イベントに参加してきました。

SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS

イベントについて。

このイベントは、岡本仁さんによるZINE「 ぼくの渋谷案内。 」の発刊記念で行われたもの。対談パートナーの小西さんとの関係について「 『BRUTUS』『relax』などで一緒にお仕事され、80年代後半にBIGIが出していた『VISAGE』では、共に編集者としても活躍 」、とSPBSのWEBサイトには紹介されていました。
僕にとって二人の存在と言えば、かつて小西さんの個人事務所よりリリースされたコント集「 東京の合唱 」の初出の雑誌掲載時の担当編集者と著者、という関係性が一番印象深いです。この本のために寄せられた岡本仁さんの推薦文、というより、言ってもいい裏話がとても強烈だったことを覚えています。

その推薦文は今もreadymade shoppingのページに掲載されているので以下に引用します。

 小西康陽に書かせた文字の量ではいまのところ世界一の編集者である( はずの )オレは、もちろん彼の文章の大ファンである。彼の文章をずっと読んでいたいから、相手のスキを見つけてはいろいろな注文をつけてきた。ところで、最近あまり彼の文章を目にする機会がないのは、もちろん彼が多忙をきわめているからだろうが、もしかして自分が注文をつけないからなのだろうか。だとしたら淋しい。ちゅうか、もっと頼めよ!他の編集者!!
 いろいろなタイプの名文をものする小西康陽の文章でいちばん好きなのは、現実のようでいてフィクションのような、曖昧な感じのショートショートだ。彼の最初の著作集『これは恋ではない』の冒頭に載っているような。なかでも95年から96年にかけて『ブルータス』で連載された「 東京の合唱 」( 彼は同名のタイトルでまったく違う内容の連載を三度、『スタジオボイス』『ブルータス』『ハイファッション』に書いている )は傑作だし、いろいろな意味で愛着のある作品だ。当時の担当編集者だったオレが、雑誌連載の最終回に欄外で付け足したように第二シリーズを12話ほど書いてもらい、それから単行本にしようと思っていたが、再開をはたせないまま五年近くが過ぎてしまった。そして先日、ご本人から「 アレ、単行本にしたいんですが 」という電話がひょっこりとありこうして解説めいたことを書いているわけで、何だかちょっと情けない気分である。第二シリーズの予告を憶えている読者諸氏、まことに申し訳ありません。
 さて、連載中のエピソードを書きつらねるのは無粋の極みなのでここではしないが、ひとつだけ。深夜に電話で代筆を命じられた時は心底驚きましたよ、小西さん。酔っぱらってたでしょ?

岡本仁

引用元:readymade-shopping

もうこの文章を読むだけで二人がお互いをリスペクトした、素晴らしい関係を築いていることがわかりますね。

そんなふたりが再会するのは今回が10年ぶり。小西さんが選曲、アレンジしたディズニー楽曲のコンピ盤「 readymade digs disney 」で仕事をして以来とのことでした。
そういうわけでショップの奥から岡本さん、お店の外から小西さんと二手に分かれて同時に登場するなんて感動の再会、小西さんがそのとき発した言葉を借りれば「 ごたいめーん! 」というかたちの演出で対談はスタートしました。

話し始めたのはお二人の出会いから。岡本さんの記憶では、小西さんのコラム集「 これは恋ではない 」にも収録されているオードリー・ヘプバーンの表記に関する文章を書いてもらったのが最初だと話していました。1987年のこと。しかし小西さんは彼がまだ高校生のとき、北海道の和田珈琲店で東京の大学に通っていた岡本さんが現在札幌にあるレコードショップ・フレッシュエアーの店主である清水さんにレアなレコードを自慢していたのをその場にいて一方的に聞いたことがある、といきなりキャッチーなエピソードを繰り出していました。
その後は「 僕の渋谷案内。 」の編集を担当した小梶氏の司会のもと、岡本さんがZINEを作ったいきさつについてや、二人にとっての渋谷の思い出について、二人の考える80年代、二人が一緒にやった仕事のことなど、興味深いエピソードが次々と出てきました。
例えば、はっぴいえんどに憧れて中野の自分の部屋から、メンバーが出入りしていたというカフェ「 マックスロード 」のある渋谷へ通った岡本さんの話とか、上記の「 東京の合唱 」にも出てきた、小西さんがかつて大酒飲みだった頃酔っ払っていつも岡本さんに電話していたことなども印象深いお話でした。

二人の語る渋谷系。

そんななかでも一番強く印象づけられた話は、やはり渋谷系について話したことだったと思います。
正直言って、司会の小梶さんも二人が渋谷系について話終えたとき「 みなさんこれで納得したかどうかわかりませんが... 」とおっしゃっていたように、核心を突いたようで突いてないような、存分にはぐらかしたような話だった気がします。
小西さんはこの話題の冒頭で、これまた自身のコラム集「 ぼくは散歩と雑学が好きだった。 」のインタヴュー嫌いのコーナーに収録されている「 渋谷系っていうのはフリッパーズ・ギターのことだと思う 」という言葉を出して多くを語りませんでした( 小西ファンとしては本に書かれていることをホントにそのまま言ってくれたのですごく嬉しかったのですが )。そして岡本さんもその言葉を受けて
「 僕はフリッパーズ・ギターが苦手なんですよ。昔小西さんの代筆でフリッパーズについて書いたとき『小山田ってどっち?』なんて今考えるとあまり上手くない原稿を書いたくらいなんだけど。というのも、彼ら『ヘッド博士の世界塔』でビーチボーイズをサンプリングしてたよね?それに頭きちゃってね、ビーチボーイズを切り刻むなんてどういうことだ、と。だけど後になって彼らはビーチボーイズ世代のようなおじさんたちをそんな風にイラつかせるためにやってるんだと気づいて、それからはもう無視しています( 笑 ) 」
なんて、とても刺激的な発言をしていました。
そしてこれらが、二人の話した渋谷系について話したほとんどすべて( あと付け加えるなら信藤三雄さんの名前を出した程度 )なのでした。

二人の考える"渋谷系"を深読みしてみる。

人によっては、せっかく渋谷系の話聴けると思ったのに拍子抜けしてしまった、と感じるかもしれませんが、総合的に聞くとなんとなく二人が渋谷系についてどう考えていたかわかるような気もするのです。
小西さんは世間的にみると渋谷系の当事者ということになっているけど、おそらく本人はそう思っていない、しかし真っ向から否定するのも違うし、怒るほどのことでもない、という風に考えたうえで、音楽家らしい、というか数々の素晴らしい言葉を繰り出してきた小西さんらしいハイセンスな切り返しとして「 渋谷系とはフリッパーズ・ギターのこと 」だと言ったのだと思います。そして渋谷系を小西さん自身から遠ざけておいたところで、岡本さんが上記のような発言をしてフリッパーズ・ギター、すなわち渋谷系について説明をしていたような気がします。
つまり岡本さんがフリッパーズについて思ったように、渋谷系とは当時のセンシティヴな若者によって作られたひとつのムーブメントにすぎない、というように二人は感じたのかもしれません。ひとことで言うとただのファッションだったり、前衛的なことをするパフォーマンスのひとつとしてしか考えていなかったような気がしてならないのです。
もちろん、そう言ったものに非常に感度の高い二人のはずだけれど、当時渋谷系と言われていたものは、二人の美意識にまったく引っかからなかった、にもかかわらず周囲からはそのファッション的ムーヴメントの中心のような存在として扱われてしまい、とても愉快とは言い切れない想いになっていたのではないか。そもそも○○系、なんて言われ方を最も嫌ってそうな二人ですから( 少なくとも岡本さんに関しては「 僕の渋谷案内。 」にもそのようなことが書いてあった )。
とまあ、長々と書いてしまいましたが、以上のようなことを踏まえて、岡本さんと小西さんにとって渋谷系とは、括られてしまったことに関しては大人として怒りはしないけど、直接訊かれたら彼らなりに全力で否定するような存在だったのだろうな、と僕は想像しているのです。

最後に。


イベント中の小西さん。岡本仁さんのinstagramから。

今回もすごく長いエントリーになってしまいました。しかしそれほどまでに、後先考えず、想いのままに書いてしまうほど、充実したイベントに参加できたんだな、という風に感じていただけたらうれしいです。他に二人による、セゾン文化などの渋谷を通した現代文化史みたいな話もすごくおもしろかったなあ。また機会があればぜひ足を運びたいイベントでした。

さらに幸せなことに、イベント参加者には先ほどから何度も出てきているZINE「 僕の渋谷案内。 」も配布されました。限定250部なのに。
そのZINEに関しては下のエントリをご覧ください。

岡本仁さんのZINE「 ぼくの渋谷案内。 」を読んで。 - simonsaxon

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