ハートブレイク・スーパーマーケット

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仕事を終え帰宅してすぐ、明日の朝何も食べるものがないことに気づいた。なぜ帰ってくるまで気づかなかったのか、と過去の自分を叱責しながら、足早に駅前のスーパーへと向かう。そこは遅くまで開いている、とはいえ23時で閉まってしまう。時刻は22時を回っていた。

自転車を停めて店の入り口へ着くと、そこには店内から漏れる蛍光灯の灯りに照らされる二台の自転車と、一組の男女がいた。誰か人でも待っているのかな、なんて思いながらそれ以上特に気に留めることもなく、地下の食品売り場に急ぐ。

普段僕がよく訪れる休日の午後だと主婦や家族で大にぎわいの食品売り場は、平日の、それも閉店間際ともなると客層がまったく違っておもしろい。多少くたびれた顔のスーツ姿の男性やビジネスファッションに身を包んだ女性がプラスチックのカゴを持って食品を選ぶその姿はドラマで溢れている。僕のように1人暮らしの人がほとんどなのだろう。なかにはこれから帰宅しもっと遅く帰ってくるパートナーを待つ女性、あるいは男性もいるかもしれない。

そんなことを考えていると、いつの間にか閉店のBGMが流れはじめていた。そそくさとレジを通り会計をすませ帰路につく。

すると店に入るときにいた自転車の二人はまだそこにいた。まだ誰かを待っているのか、なんて考えてやり過ごそうとしたが、よく見てみると少し様子がおかしい。二人とも浮かない表情をしているし、なかでも男性はより落ち込んでいるようだ。そして男性の手は自分の乗ってきたらしい自転車のハンドルを握っている女性の手を握っていた。彼女たち二人の前を通り過ぎるとき漏れ聞いた会話によると、二人はどうやら別れ話をしているらしい。それで二人は僕が店に入り出てくるまでの数十分、その場に立ち止まったままだったのか。妙に納得しながら、しかしなぜ夜のスーパーマーケットの前で?という疑問を残し僕は自宅へと帰って行った。

数日のち、近所の喫茶店に入って作業をしていると、隣の席から女性の会話が聞こえてきた。
「 そういえばあの人とどうなったの? 」
「 もう別れちゃった。スーパーマーケットの前でね 笑 」
振り向くと、そこにはもちろん先日のスーパーマーケットの女性がいた。

その後僕はずっと彼女たちの話を盗み聞きしたのは言うまでもなく、盗み聞きの結果、スーパーマーケット前で抱いた疑問もすぐに解決したが、もちろんそんなことはここでは書かない。それを聞いて、女性は取り乱しているようにみえていつも冷静で、さらに残酷で、だからこそ愛おしい存在なのだな、なんてことは考えたけれど。

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