ロイ・アンダーソン「さよなら、人類」レビュー 歴史は繰り返さないが韻を踏む

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劇場公開時に見逃していたロイ・アンダーソン「 さよなら、人類 」をやっと観られた。とても変わった、しかしとても素晴らしい作品だった。

まず彼の映画の特徴でもあるパースペクティヴがはっきりした映像にまんまと魅了された。画作りに関してロイ・アンダーソンはエドワード・ホッパーやピーテル・ブリューゲルなどの絵画を参考にしたらしいが、これは作品を観れば大きく頷けると思う。画面内に話とは直接関係ない人物が異常とも言えるほどたくさんいるところなどはまさにブリューゲルだし、レストラン前のシーンはホッパーの名画「 Nighthawk 」を思い出さずにはいられない。登場する男性の顔面がみんな真っ白なのも異様でいい。

反復や映像的押韻を映画内の端々に散りばめることで宇宙的な空間を作り上げる構成

そして構造的にも素晴らしい映画だった。ワンシーンワンカットの短い( 最短1分、だいたい3〜5分、長いもので15分ほどの )エピソードが39個連なっていて、そのなかには物語の縦軸として、ヴァンパイアの付け牙や笑い袋、歯抜け男のマスクなどのジョークグッズの行商をしている二人の男がお金に困ったりケンカしたりする話が用意されている( 数でいうと10エピソードくらい )。そのほかにも2、3個エピソード間でのつながりがあるものは存在しているが( ロシアとの戦争に向かうスウェーデン国王カールがカフェに立ち寄って美少年を口説くエピソードとその戦争の帰りにトイレを借りに再び訪れるエピソードなど )、それぞれの短いエピソードたちはストーリー上はほとんど独立していると考えることもできる。
とはいえ、演出上はその限りでなく、例えばフラメンコ教室のシーンに出てくるやたらと若い男性生徒と彼に恋してるためやたらとベタベタ触る中年の女性教師が、また別のシーンではレストランでデートしている様子が描かれていたり( それも極控えめに! )、キス1回でお酒を一杯飲ませるロッタという女主人が営むカフェで歌われる歌が、先にも書いたカールが軍隊に歌わせる歌と同じだったりする( 節はごんべさんの赤ちゃんでおなじみのリパブリック賛歌 )。あるいは孤独そうな人が電話してる相手に向かって「 元気そうで何より 」と言うショットが何度も( 人と場所を変えて )差し込まれたり…などと挙げていけばキリがないがそんな関係性をもつエピソード群がたくさんあるということは、それらは一見つながっていないようで実はすべてつながっているのではないかと思わせる、すなわち独立したそれぞれのエピソードが入れ子のように組み合わさり互いに影響しあうような関係になっている、と捉えてもいいだろう。
そのなかでも、窓辺の二人の少女がシャボン玉を吹くシーンと、半裸の男女によるまた別の窓辺のシーンの相似形は打ち震えるほどに素晴らしく、直感的に「 これは映像で韻を踏んでいる! 」と思わせるようなレトリックだった。反復や映像的押韻を映画内の端々に散りばめることで宇宙的な空間を作り上げている、とかイグザジャレイテッドなことも堂々と言えてしまうほどである。この映画について加藤登紀子さんが「 ソネット( ヨーロッパで発展した14行の定型詩 )の手法を映画に置き換えたような 」作品と言っているがまさしくそんな感じ。近ごろ詩的な作品というと、ポエジーという名のナルシシズムに載せて己の劣情や理想と現実との乖離などに苦悩する( そして苦悩している自分に陶酔している )サブカル男子みたいな映画や小説が多いけど、これは近年稀に見る、ポエジーとは何かを真正面から捉えた映画だと思う。



En duva satt på en gren och funderade på tillvaron ( Trailer ) from Roy Andersson on Vimeo.

最後に

この映画、原題は「 En duva satt på en gren och funderade på tillvaron( 実存を省みる枝の上の鳩 ) 」という( これもブリューゲルの絵画からヒントを得たのだとか )。そのタイトルや彼の過去2作( 愛おしき隣人、散歩する惑星 )と合わせて「 リヴィング・トリロジー 」という三部作になっていることから、人間とはなにか、とか、生きるとはどういうことか、みたいなテーマについて考えることもできるだろう。むしろこの作品が持つ詩情はそれをシンプルに考えさせるためにあると言えるかもしれない。そして人生を考えることについてこの作品に込められたメッセージを最も象徴する、唯一遠近法控えめでシンメトリーを強調したシーン( ワンシーン2カットのエピソードでもある! )はあまりにも哀しく美しかった。

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