ところで、これからの夏の話ですが

今年の夏は北に行こう、とずいぶん前から心に決めていたが、諸々の事情があってそれはできなくなることが決まってしまった。連れ立って行く予定だった友人にはどう話そう、彼らも私と等しく北へ行くのを楽しみにしていたはずだ、とはいえ私が行けなくなることで彼らの旅の予定はほとんど変わらないだろうけれど。

めくるめく行き場のないネガティブ思考を抱えながら、肩を落として外に出た。近ごろは天気が不安定で、その日も激しい雨が降り続いていた。しかし空は明るい。いわゆる天気雨というやつです。

私がよく通る道は道路工事をしている。始まったのはちょうど私が旅をするのを思い立ったときと同じ頃だ。なんて記憶を改ざんして言うこともできるけれど、実際はそれよりもずいぶん前から騒音を響かせていた。つくづく世の中うまくいかない。その日は激しい雨だったにもかかわらず、道路の舗装をしていたらしい。数十メートルに渡って黒々としたできたての道が目前に延びている。夕暮れどきだったので工員はすでにいない。敷きたてのアスファルトが雨に濡れ、茹だる地面から上がる湯気が一面に立ちこめていた。

そんなことがあって私は、今年はもうどこにも行かず、ただ家にいてやり過ごすのもいいかな、なんてことを考えたのである。