「太陽王アンドレ・ブルトン」時代も背景も違うふたりの文章(と写真)がおたがいを補完しあう魔術的な書物

投稿日:08/09/2016 更新日:

- sponsored link -

  

2016年はアンドレ・ブルトン没後50年にあたるということで、手持ちのシュルレアリスム関連の本や映画を読み返したり観かえしたり、あるいは新たに手に入れたり観に行ったりしている。その関連でとある文学者の講演を聴きに行った際、話し手の方が「〇〇誕生から100年とか没後××年とかはただの数字であり、いく年か前にそういうことが起こったということを示す情報でしかない。だから、その期に乗じて展覧会を開いたり本を生産するなどして商売をするなんてもってのほかだ。扱うとしても歴史的に捉えなければならない」というようなことを言っているのを聴いて深く感銘を受け、聴いた直後はそう謳ったすべてを「唾棄すべき!唾棄すべき!」と思いながら忌避していたのだが(かわいいところあるでしょう?)、それからしばらく経った今ではとりあえず節目の年ということでこれをきっかけに利潤を追求することにとらわれずに作られるものもたくさんあるだろうから、受け手としては単純に楽しもう、となんてことに思い至り、なんとか気持ちに折り合いをつけている。

そんなことを書いてみたのははまさしく今言ったような、没後50年をある種特別に捉えて、これまで邦訳されてこなかったブルトンにまつわる文章や写真を改めて世に出そうとして生まれた本を何度も読み返しているからだ。京都のシュルレアリスム系出版社、エディション・イレーヌによる「太陽王アンドレ・ブルトン」がそれである。

太陽王アンドレ・ブルトン
アンリ カルティエ=ブレッソン アンドレ ブルトン
エディションイレーヌ
売り上げランキング: 506,935

ふたつのテキスト、写真を時を超えてつなぐ魔術的な構成

「太陽王アンドレ・ブルトン」は、世界的な写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンが1961年に撮影した、多くの人々にとってこれまで持っていたアンドレ・ブルトンのイメージ、たとえばシュルレアリスム運動を支え、思想に反するものたちを次々に破門していったことだとか、政治的な批判を繰り返すような彼の行動から抱いたイメージを確実に塗り替えるだろう、ブルトンの素晴らしい写真が13点と、彼が撮影時のブルトンの様子について(1995年、原語版写真集が発売された当時に)書いた短いエッセイをメインに、1957年「シュルレアリスム・メーム」誌第3号にて発表された、アンドレ・ブルトンによる散文「石のことば」が併録されている。
異なる作者による短い文章が2編といくつかの写真のみ、という、書籍としてはだいぶ変わった構成になっているが、その構成はしかし運命的なようにも感じる。

-sponsored link-

たとえば、収録されている写真の多くがブルトンが河原で石を拾う姿を(ほとんどスナップのようなかたちで)捉えたもので、石を見つめるブルトンの眼差しは彼の巨体にもかかわらず、まるで子どもであるかのように感じさせる(カルティエ=ブレッソンによるエッセイも、多くを石を拾うことに割かれている)し、そして先述したように、アンドレ・ブルトンによる散文のタイトルは「石のことば」で、そのなかには「石のすべての面に光が降り注ぐ様を見ようとするには、幼年期の瑞々しさを多少留めている人にしかできないことである」云々という記述がある。それはまるでカルティエ=ブレッソンが撮影したこどものような自分自身の姿についてキャプションを与えているかのようだ。

上にあげた関係性は、本書の中で感じたほんの一例だけれども、つまり書かれた(撮られた)時代も背景も違うふたりの文章(と写真)が、おたがいを補完しあっているようにも捉えられる構成になっている、と考えることもできる。むしろ二つの著作が同じ書物に入れられるべく、それぞれ別の場所で生まれ 2016年の日本においてやっと引き合わされのだ、と素直に思える書物、言ってしまえば彼らの好んだ"魔術的"な書物に仕立てるための素晴らしい構成になっていると思う。

最後に

ノンブル順に読んでいくと、平易で的確なことばを紡ぐカルティエ=ブレッソンの文章と、ゴリゴリポエティックなブルトンの文章、それぞれの文体があまりに違いすぎて、その落差に思わず笑ってしまう。訳者・松本完治氏による解題も熱量高めで読み応えがある。なんとページ数は解題が一番多いので、松本氏も含めた三人による共著のようであるし、それも含めて魔術的だ、と言ってみたくなる。

太陽王アンドレ・ブルトン
アンリ カルティエ=ブレッソン アンドレ ブルトン
エディションイレーヌ
売り上げランキング: 506,935

- sponsored link -

-, , , , , , , , , , , , , , ,

関連記事(PRあり)

Copyright© simonsaxon.com , 2017 All Rights Reserved Powered by STINGER.