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旅の本質を捉えるトラベル・カルチャー誌「BIRD」のパリ郊外特集。

2016/07/29

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BIRD05号冒頭の「フランス映画のヒロイン」コーナーに掲載された一枚。ルイ・マル監督「地下鉄のザジ」の主人公、ザジがモチーフ。

3/19に発売された「BIRD」の第五号、パリ郊外の街特集がとても素敵な内容でした。

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BIRD(バード)5号 パリからの週末旅行 (講談社MOOK)
講談社 (2014-03-19)
売り上げランキング: 523

BIRDについて。

講談社MOOKより発売されている季刊誌「BIRD」は、旅を通して世界の文化を伝えるトラベル・カルチャー誌TRANSIT(制作ユーフォリアファクトリー)の姉妹版、もといガールズ版として2011年にスタート。半年ペースで2号を刊行し、その後1年半ほどの休止を経て、2013年9月に発売された03号アイスランド特集でリニューアル復刊した模様です。

読者ターゲットは20代後半〜30代くらいの女性、といったところでしょうか。独善的にプロファイルするならば、文化的な美意識の鋭い、精神的にも経済的にも余裕のある独身女性。それでいて何かと縦割りな考え方が蔓延している現代社会に何らかの違和感を持っていて、それに日々翻弄されながらも心の中では抗おうとしている、月並みな言い方をすれば自由を欲している女性、といったところでしょうか。以前ブログで紹介した&Premiumに通じるものもありそうです。

BIRDを制作しているユーフォリアファクトリーの編集者さんがインタビューを受けているCINRA.JOBのページによると、元々は編集長の林紗代香さんが一人で作っていた雑誌だそうです。もしかするとそれはリニューアル前のことで、その後復刊を機に本腰を入れてチームを組んだのではないか、と想像しています。

ちなみに上記のことが言及されているcinraのページはこちら。↓

菅原 信子 | 私としごと | WEBデザイナー・音楽・編集...クリエイティブの求人 CINRA.JOB

(余談ですが、一人で雑誌を作る、というと、私は直線的に昨年phpより発売された文芸誌milleを思い出してしまいます。こちらも女性編集者さんがほとんど一人で作ったとても素敵な雑誌。こちらも季刊でそろそろ次号が発売するかもしれない(公式にリリースはされていません)ので、そのときにはレビューしたいものです。)

BIRDの構成、レギュラーコーナーについて。

このBIRD、特集とは別に、いわゆる"雑誌"的な部分(女性誌でいうところのコスメやファッション、食の紹介など)は、全体として女性の一日の流れを下敷きにして構成されています。ページを追うごとに朝、昼、夜、深夜というワードが出てきて、例えば最初には朝の身支度をするための化粧品や、世界の朝ご飯などの紹介にページが割かれます。そして次には特集のコンテンツが入り、その次は昼、そして第二特集...と続いていき、読み進めていくに連れて、朝から夜の時間軸をベースに、様々なものが入り乱れてくるように感じます。これは作り手側が意識して刹那的な偶然性、あるいは掲載されているものや表現、文化との出会いをキチンと用意してくれているということなのかもしれません。そしてこういう構成は雑誌にしかできない、雑誌にしか許されないものだと思うのでホントに素晴らしい。そこまで考えて構成している編集スタッフの方々はホントに雑誌が好きなんだなあ、と感じます。

男性有名人による、女性をテーマにしたコラムページ。過去には小西さんのシティ・ノヴェルも載っていました。

連載もので私が好きなのは、「朝の女」「昼の女」「夜の女」というテーマで男性作家(やタレントなど)が寄稿するコラムページ。今回は朝をピースの又吉さん、昼を作家の戌井昭人さん、夜を堀江敏幸さんが担当していました。過去には小西康陽さんや渋谷直角さん、前田司郎さんなんかも参加していて、それぞれの女性観、みたいなものを感じさせる文章を読むことができます。

あと先日このブログでも触れた西村ツチカさんの1コマイラスト連載もあって、それも毎号楽しみにしています。

参考記事:西村ツチカ作「さよーならみなさん」の凄さ。

旅への感性を刺激する紀行誌。

ヌーヴェル・ヴァーグ感のあるコーナータイトル。元ネタはもちろん短編オムニバス映画「パリところどころ」ですね。

前置きがかなり長くなってしまいましたが、今回のBIRDは、冒頭にも書いたとおりパリの郊外特集。先月号のCREAとか今月号のFUDGEとか、はたまたFIGAROとか、今に始まったことではありませんが数多の雑誌が挙って日本人にとって最大と言ってもいい憧れの地・パリを特集するなかで、BIRDはそれから一歩踏み込んだパリの郊外に目を向けています。

そして表紙には「パリからの週末旅行」という見出しを冠し、中面ではパリに中長期滞在する人のための、パリ以外の魅力的なフランスを紹介しています。特集の組み方からして読者に阿ることをしない、それでいて編集者のナルシシズムを感じさせないところがたまらないですね。

しかしそういった切り口の部分だけではなく、このBIRDが他の雑誌と一線を画しているところは、編集者やカメラマン自ら現地に赴き感じたことを記した紀行文がメインに据えられていることではないでしょうか。

ここ最近の旅行雑誌と言えば、ほとんど情報誌とイコールに見られがちで、たとえば「フランスに行ったら絶対にはずせないスポット!」とか「パリに飽きたら次はここに行くのがマスト!」とか、それなりに魅力が決まっているもの、誰が見ても凄いもの、あるいはあまり知られていないだけで定番化しているスポットと大差ないものなどを提示し、いかに旅行費を無駄にしない旅をするか(と読者に錯覚させること)に主眼がおかれているようなものが多いですね。

しかしBIRDはそんなガイドブックとは正反対の位置にあると言っても過言ではない、とても開かれた雑誌だと思うのです。今号では、編集長の林さんみずからフランスに赴き(旅行雑誌では結構異例なのではないかと思う)、実際の旅程(パリ近郊のロワールと言う地区に散在する中世の城をめぐる旅)を通して感じたこと、考えたことを多少叙情的な趣向も交えながら文章にしています。

この紀行文も、有名人や名だたるクリエイターなどが書いたもの、あるいはスポット紹介に付した体験レポート的なものは他誌にもあるでしょう。しかし結局はそれらもすべて説得力を持たせるためだけの情報でしかない、というのが正直なところです。しかしBIRDは読者を惹きつける情報としてのために著名人を起用することなく、作り手自ら文章を書いています。そしてその文章の中に「ここは絶対に訪れたほうがいい」などの、なにかを限定するような、視点を固定させるような表現はひとつもないのです。おそらく先に挙げたような縦割りのガイドブックのようにはしたくない、という想いもあるでしょう。しかしそれと同時に、旅において「どこに行くか」ということより「何を感じ、何を考えるか」が重要である、ということを示しているのではないかと思うのです。

それはまさしく旅というものの本質をついている、という気がします。雑誌が手を引いて、読者、あるいは旅行者をリードするのではなく、各人に潜在しているその街への想いや、旅への想いを喚起する。あえてリリカルな表現をさせてもらうなら、編集長の林紗代香さんはじめカメラマンやスタッフさんなどの紀行文が、直接的に読者を彼の地へ誘っているようなもの。そしてそれこそがこのBIRDという雑誌の最も素晴らしいところだと感じます。

もちろん、そういう想いだけでは雑誌は作れないでしょうから、構成の中には多少旅行ガイド的な部分もあり、たとえば今回で言うと、フォンテーヌ・ブローの森やナント、競馬場で有名なドーヴィルなど、パリから電車や車で数時間以内で訪れることができる街が紹介されています。しかしそのページもまた旅への想いの喚起、という考え方の延長にあるのでしょう。

さらに紀行文の後にガイドが置かれているのも象徴的で、まずは紀行文に触れることで幾分旅行に対しての本質的な感覚を開いておいてから、訪れるべき場所を固定するためではなく、開かれた感性が反応する何か別のところを複数提示するためのガイドになっているように思います。

特集内のコーナーで一番印象的だったのは、フランスで活躍するデザイナーによるおすすめのパリ近郊の街紹介。アニェス・Bのお気に入りのフランスの街などを知ることができるのはもちろんですが、ベルギー出身のデザイナー、ジャン-ポール・ノット氏の文章が上に書いたような考え方と通底しているようで特にすばらしかったです。

最後に。

第二特集の「ボタニカルの世界」では前田ひさえさんのイラストが寄せられていました。

最後に触れておきたいのは、この雑誌のデザインの素晴らしさ。読みやすいのにただシンプルなだけでなく、それこそランダム性みたいなものを表現するかのようなデザイン。文章を読むのが苦手な人でも、ただ眺めるだけで胸が躍るような気がします。

その辺も含めてカルチャー的なものへの意識を確実に高めてくれる素晴らしい雑誌だと思いますので、みなさん是非読んでみてください。

関連リンク

BIRDオフィシャルHP

BIRD | バード | Life's a journey

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