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岡本仁が語る少部数出版の未来。【続・果てしのない本の話刊行記念トークイベントレポート③】

2016/03/18

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続・果てしのない本の話。

3つめにして最後になるSPBSで行われた「続・果てしのない本の話刊行記念トークイベント」エントリですが、今回はイベント参加者に配られた「続・果てしのない本の話」にまつわるトークについてレポートしたいと思います。

この「続・〜」は一般的な出版物に比してきわめて少ない発行部数の、いわゆるzineとかリトルプレスと呼ばれる形態で出版、発売されました。

岡本さんは過去にも同じようなかたちでたくさんの少部数出版物を発行していますが、今回もなぜその形態を選んだのでしょうか。そういったことに関して、「続・〜」の成り立ちから近年にわかに注目を集めている所謂「小商い」につながるようなワークスタイルとしての少部数出版にまで及んだトークを以下にまとめていきます。

※同じトーク中に出てきた本との付き合い方の話やAmazonの話は、また別エントリでご紹介します。ご興味のある方は以下リンクよりお楽しみください。

関連リンク:
岡本仁の読書遍歴、本とのつきあい方。【続・果てしのない本の話刊行記念トークイベントレポート①】
岡本仁の考えるAmazonとリアル書店の正しい関係。【続・果てしのない本の話刊行記念トークイベントレポート②】

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「果てしのない本の話」の成り立ち。

今回のイベントのきっかけとなったzine「続・果てしのない本の話」の先行作にあたる「果てしのない本の話」は、昨年1月に発売された岡本仁さん初の単著となる単行本で、もともとHugeというファッション雑誌(現在休刊中)で連載していた同名エッセイをまとめたものです。一般的な書評ではなく、日々思ったことのなかに、本にまつわるあらゆるエピソードが次々と現れ、それらがつながっていくように書かれた大変魅力的なこのエッセイは、最初からそのスタイルで書く、と決めたものではなかったそうです。それに関して岡本さんは、以下のように話しています。

「ちょうど連載をはじめようとするときに片岡義男さんのロンサムカーボーイを読みなおしていたことが大きいですね。ぼくが高2か高3くらいのときに初めて出た連作小説集なんだけど、ここ10年くらい仕事でアメリカに行くことが多くなって、アメリカ国内で長い距離を移動しているときに「ああ、片岡義男さんが書きたかったことはこういうことなんじゃないかな」と思うことがたくさんあって。あのとき本で読んだことを、現実世界で体験できた感じがしたので、連載でそういうことを上手にかけたらいいんじゃないかと思ったんです。それでロンサム・カーボーイのことを書くことにしたのですが、ストレートにはじめることはできないから、まずはロデオの話からはじめようと思って、別のロデオの写真集のことから書きはじめ、それでロデオの写真集について少し書きはじめたら、そういえばスパイク・ジョーンズがロデオのドキュメンタリーを撮っていたことを思い出し、そのことについても書きたくなった。そんなことをしていたら、ロンサム・カーボーイのことを書く前に第1話の字数が尽きてしまった(笑)でももう締め切りも過ぎてたし、それを納めるしかなかった。それでも担当の柴田くんに「こんな感じでどうですかね」といったら「おもしろいですね」と言ってくれたので、そのままなし崩し的にはじめた、という感じですね。」

岡本さんの文章を好んで読む人々にとっては読み慣れたスタイルで書かれているような気がしていた「果てしのない〜」でしたが、思いつきに近いようなかたちで始まっていたことは意外でした。ともあれ、今回発売された続編もタイトルに継続性がみられるように、その内容、というか文章のスタイルも単行本に書かれているものを踏襲している、ブログやInstagramなどで発表された本にまつわるコラム、エッセイ10編を収録しています。

”企画書を書くくらいなら自分で作ってしまおう”(zineについて。)

しかし、一作目は本の雑誌社という名の知れた出版社からの単行本で出され、二作目はzine、もといパピエラボというデザインオフィスが版元となったリトルプレス(少部数出版物)というかたちで発表したのか、そのことについて、岡本さんは「企画書を書くくらいなら自分で作ってしまおう、と思った」という刺激的な言葉とともに、以下のように説明しました。

「ホントは今回に関しても商業出版社から出て、全国の書店に並ぶって言うのが本としては理想なんですが、ぼくの力量不足というか、ぼく自身が出せば売れるというような作家ではないのでそうはならなかった。出版社から自分で出したいとおもったときは、会社が『これは売れる』と思うような企画でなければならない。それで今回の本(続・果てしのない本の話)はそういうものではないと自分では思っていたので、出版されるかどうかわからないようなもののために企画書を書くくらいなら自分で作ってしまおう、と思ったんです。あと現時点でこの続きを読みたいと思うような人間がとりあえず自分しかいなかったから自分で作っちゃった、という感じですね」

これは言い換えると「売り物にはしにくいがかたちとして残しておきたいものなので自分で作った」ということなのでしょう。前回のエントリで触れた「物質として残しておく重要性」ともつながっていく話だと思います。

そして版元がパピエラボになっているのは、何年か前にCOW BOOKSでやったリトル・プレス展に端を発するとのこと。その展示に際してzineを作ることを頼まれたときに「パピエラボの江藤くんが『自分のところで売らせてくれるのならうちが版元になりますよ』と言ってくれた」ので、「行けない店」というzineを作り(そこで展示されていたものが1点ものzineとかが多くて。それに違和感があって作った、とも言っていました)、その後同じようなかたちでもう1冊「ぼくは音楽を聴いているだろうか」を出版。今回の「続・果てしのない本の話」もその流れで作れないだろうかと考えて、江藤さんにオファーしたらOKしてくれたそうです。そのせいか、同じ版元から出てる同著者の3冊のzineは、装丁にも連続性があって、コレクター魂をくすぐる感じになっていますね。

また、今は一人でもオンデマンドで簡単に作れるにもかかわらず三度にわたってパピエラボにお願いしているのは、岡本さんが「誰かに頼んで作る」ことを重用ししているからだそうです。岡本さんにとって「最低一人、だれかを説得できないものは存在しなくてもいいもの」であり「この本にしても前にパピエラボから出した本にしても、江藤くんがOKを出してくれるかどうかって言うところが最初の関門というか重要なことで、そこを越えてかたちになったものが自分にとっても価値があるものだと思っている」とのこと。さらに「ひとりで全部作ってしまうのは壁新聞と同じように思えてしまうし、どんな形であれ他人が入ってからようやく印刷する、というやり方が、自分でも好き」だからだとも話していました。

そのほか岡本さんは、発行部数が単行本だけでなく今回のzineにもイラストを描いてくれたNORITAKEさんがギャランティを「現物でいただければOK」と言ってくれたので彼の取り分も含めて少し多めの300〜400部であること(岡本さんは本としてかたちにされれば満足する、という理由で原稿料をもらっていないそうです)や、その発行部数は単行本や雑誌などと比べて割高な感のあるzineというかたちで、どれだけの人たちが購入してくれるか、ということなどを考えて決定していること、そんななかで250部くらいが岡本さんにとって一番いい規模であること、とはいえはっきりとした発行部数や流通の流れなどは版元のパピエラボにほぼ任せていて、自分でははっきりと把握しているわけではないこと、などを話していました。

リトルプレスは自由。

その流れで、進行役のSPBS店長鈴木美波さんの「最近は今回の岡本さんの本のように小さい規模で、無理なくモノづくりをするような人たちが増えてきていますね」という投げかけから、岡本さんがzineを作る理由として、上に書いたこと以上に核心を突いているような話を繰り広げていました。以下にその要旨をまとめます。

Q:最近は、小さいサイズ感で無理なくモノ作りをする人が増えている傾向にありますね。

「傾向があるっていうか、そうならざるを得ないっていうか。要するに1冊の本で何人が生活しなければいけないのかってことだと思うんですよ。たとえば音楽もそうで、メジャーなレーベルでなにか音源をリリースしようとするときに、その企業に1万人従業員がいたら、その人たちを養っていくだけの利益を出さなきゃいけない。そういう計算で成り立っているものだと思う。じゃあそこに個人的な資金を投入してなにかを作ったときに、そこで赤字が出ないようにするとか、ちょっとでも利益が出るようにするにはどうすればいいかと思っている人間が何人いるかってところで、規模は決まってくると思います。この「続・果てしのない本の話」はそれがぼくと江藤くんとNORITAKEくんの3人ということですね。
でもそうすることによって、比較的自由になれるというか『こうじゃなければいけない』というものの数が減らせる。例えば「行けない店」を作ったとき、江藤くんの思い入れもあって表紙を活版印刷にした。印刷代が高いのに。ぼくはオフセットでいい、と言ったのに、仕上がってみると活版になってた。「高く付いたでしょ?」って訊いたら「いや、印刷屋さんのクーポン券があったんで」って言って。だからそのときはお金の面では大丈夫だったと思うんですけど、2冊目以降も活版にしてくれている。それはいいのかなあ、と思ってるけど、江藤くんがいいと言ってくれているんだから甘えよう、という感じですね。流通についても、たとえばこの本についてしゃべりたいから、トーク訊かなきゃ売らない、みたいなこともできちゃう(笑)そういった楽しさを考えたら、1万部を目指して企画書書くよりも、100部とか300部とかで自由にできたほうがいい。
逆に、書いたら100万部売れるような人も自由だとは思うんですよ。何書いても100万部っていう人。で、その中間が一番不自由。今まではみんながその100万部売れることを目指してやってきたところがあるけれど、じつは下、規模の小さいところにも自由があったっていうことにみんな気づきはじめている。小さいサイズ感でモノ作りをする人が増えているのはそういうことだと思います。もちろん大きくやりたいものもあるだろうけど、大きくやるなら乗り越えなきゃいけないものが多いから」

これらの岡本さんの発言は、これからモノを作ろうとしている人々だけでなく、なにかと行き詰まっている感のある社会、経済のなかでの仕事の意味などを考えるということからみても、非常に重要な言葉ではないかと思うのですがいかがでしょう。

最後に。

というわけで、SPBSで行われた「続・果てしのない本の話刊行記念トーク」に関して3回に分けてレポートしてきましたが、どれをとっても刮目させられるような内容なのに、まったく教育的でないところなどがたまらないですね。もっと岡本さんのいろんな話を聞いてみたい、と思わされてしまいます。またトークイベントの機会があれば、みなさまも是非足を運んでみてはいかがでしょう。

関連リンク:
岡本仁の読書遍歴、本とのつきあい方。【続・果てしのない本の話刊行記念トークイベントレポート①】
岡本仁の考えるAmazonとリアル書店の正しい関係。【続・果てしのない本の話刊行記念トークイベントレポート②】

商品情報

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